揺れる日本で、私たちはどう家を支えるか
古民家に心惹かれる方なら、「石場建て」という言葉を一度は耳にしたことがあるのではないでしょうか。
柱を石の上に直接据えるという、日本の伝統的な工法。あの何百年も残ってきた家屋を支えた仕組みです。
一方で、いまの家づくりは「べた基礎」が主流です。
鉄筋コンクリートで家の土台をしっかり固めてしまう。これもまた、現代の暮らしを守る合理的な選択です。
「古い家の風情を残しつつ、家族の安全を守りたい」
「べた基礎がいいとは聞くけれど、どちらが正解なの?」
そんなふうに迷う方も多いはず。
今日は石場建てとべた基礎の違いを、耐震というテーマでじっくりと、そして少しだけ愛情を込めてお話ししてみたいと思います。
石場建ての魅力とは
石場建ての大きな魅力は、その「柔らかさ」です。
地震のときには建物が石の上でわずかに滑ったりずれたりしながら、揺れの力を受け流す。
柔構造とも呼ばれるこの考え方は、日本人の地震との向き合い方そのものを体現しているように感じます。
さらに、基礎と柱が密着していないぶん、湿気を逃がしやすく、通気性が良いのも石場建ての特徴。
木材を長持ちさせる工夫としても、とても合理的です。
実際、数百年を超えて残る古民家は、その恩恵を受けながら生き延びてきました。
ただ、現代の耐震基準に当てはめると
「計算上はOKとは言えない」
とされてしまうことが多いのが実情。
でもそれは、石場建ての良さをうまく数値化できないだけかもしれません。
べた基礎の力強さとは
一方のべた基礎は「がっちり守る」構造。
鉄筋コンクリートで面を一体化し、建物と地盤をがっしり結びつけます。
耐震等級の計算がしやすく、現代の基準で安全性を示しやすいのは大きな強みです。
大きな地震のときにも、強い横揺れに耐えられるように作られており、
「命を守る構造」として多くの人に選ばれてきました。
さらに、床下をすべてコンクリートで覆うため、
湿気対策やシロアリ対策にもつながるのは安心材料です。
とはいえ、べた基礎にも弱点はあります。
水害で浸水してしまった場合、基礎の内部に水が入りやすかったり
地盤が極端に弱い場所では沈下のリスクが残るなど
「万能」というわけではないのです。
石場建てのメリット・デメリット
【メリット】
- 建物が柔らかく揺れをいなす
- 通気性に優れ湿気に強い
- 修繕や手直しが比較的しやすい
- 何より、古民家ならではの風情と趣
【デメリット】
⚠ 現行の耐震基準に合わせにくい
⚠ 石のズレや沈下で傾きやすい
⚠ 白アリや腐食のリスクも油断は禁物
⚠ 大規模な耐震リフォームは難しいケースも
べた基礎のメリット・デメリット
【メリット】
- 構造計算で安全性を確認できる
- 耐震等級の取得が容易
- シロアリや湿気への抑制効果
- 長期的に安定した耐震性能
【デメリット】
⚠ 地盤が弱いと不同沈下に要注意
⚠ 水害に弱い一面もある
⚠ 床下点検や補修の自由度は低め
住まいの「生き方」をどう選ぶか
石場建てとべた基礎。両者を比べてみると、実は「どちらが優れている」という単純な話ではないことが見えてきます。
石場建ては、あえて揺れに合わせて生きる「しなやかさ」
べた基礎は、揺れに真っ向から立ち向かう「強さ」
どちらも、人の暮らしを支えてきた立派な知恵。
そしてどちらも、完璧ではありません。
もし古民家を引き継いだなら
全部を現代のルールに変えるのではなく
・足元を耐震金物で補強する
・梁や柱の接合部を見直す
・日々の点検を欠かさない
そんな「寄り添うメンテナンス」で
その家らしさを活かしつつ家族を守る方法もあります。
逆に、新築を考えている方はべた基礎の安心感をベースに
古民家の柔構造の知恵を少し取り入れてみるのも
暮らしに味わいを加えるヒントになるかもしれません。
時代を超える家に想いを込めて
何百年という時を超えて立ち続けてきた古民家。
そこに刻まれた「生き延びる知恵」は、本当に尊いものです。
そしていま、私たちが当たり前のように選ぶべた基礎も、
家族の安心を支える技術の集大成。
人も家も、「揺れる」時代に生きています。
だからこそ
どう揺れるか
どう立ち直るか
そんな哲学のような問いを、家の足元から考えてみてもいいのではないでしょうか。
思い出を大切にしながら
新しい知恵で命を守る家づくりを。
それが、これからの時代を生きる私たちにとっての
本当の耐震なのかもしれません。