田舎こそ車社会【丹波篠山市|有限会社クレア】

移住を考えるとき、多くの方はまず「どんな家に住もうか」から考えます。

新築がいいのか、中古住宅を直して住むのか。庭はいるのか、部屋数は足りるのか、学校や買い物は近いのか。そこはもちろん大事です。工務店の立場から見ても、住まい選びは暮らしの土台になります。


ただ、実際に地方での暮らしが始まってから「思っていたより大変だった」と感じるきっかけは、家そのものより先に“車”で起きることが少なくありません。

車が一台で足りると思っていた。雪の日の通勤を軽く見ていた。子どもの送迎が重なって、毎日どちらかが予定を譲ることになった。家は気に入っているのに、駐車のしにくさや通勤の負担で、暮らし全体にじわじわ疲れがたまっていく。そんな話は、実は珍しくありません。


地方暮らしでは、車は「あると便利なもの」ではなく、「暮らしの仕組みそのもの」になりやすいです。だからこそ、家づくりや物件探しの前段階で、車のことを少し冷静に考えておく必要があります。


今回は、移住の失敗がなぜ“家より先に車で始まりやすいのか”。維持費、台数、雪、通勤、子育て、駐車計画まで、現場感のある目線でお話ししてみたいと思います。


「田舎は家賃が安いから暮らしやすい」は半分当たりで、半分は違う


移住を考える方とお話ししていると、よくあるのが「都会より家賃も安いし、土地も広いし、生活コストは下がりますよね」という見方です。これは、半分はその通りです。たしかに、住まいにかかる費用だけを切り取れば、地方のほうが条件の良い家に手が届きやすい場面はあります。ただ、暮らし全体で見ると、それだけでは計算が合わないことがあります。理由は単純で、地方では“移動コスト”の比重が大きいからです。


都会では、駅が近い、バスが多い、自転車でなんとかなる、徒歩圏内に用事がまとまる、ということが珍しくありません。けれど地方では、買い物も通勤も通学も送迎も、ひとつひとつの距離が長くなりがちです。しかも「片道だけなら大したことない」と思っていた距離が、毎日往復し、家族の予定が重なり、休日の移動も加わると、かなりの負担になります。


ここで見落としやすいのが、車の費用はガソリン代だけではない、という点です。車両本体の購入費、車検、自動車税、任意保険、タイヤ交換、オイル交換、バッテリー、ブレーキまわり、場合によってはスタッドレスタイヤやアルミホイール。さらに走行距離が伸びれば、消耗も早くなります。つまり地方では、車は“所有して終わり”ではなく、“使うほどお金がかかる生活インフラ”です。


この感覚がないまま移住を進めると、「家は想定内だったのに、家計がなぜか苦しい」という状態になりやすいです。家のローンや家賃は計画していても、車まわりの支出が家計をじわじわ圧迫する。しかも固定費と変動費の両方で効いてくるので、後から見直しにくい。ここがやっかいです。


移住を前向きに考えるなら、住まいの金額だけで比較するのではなく、「この場所で暮らしたら、車に毎月どれくらいかかるか」という目線を、最初から入れておくのも大切かもしれません。家を見る目は厳しいのに、車の現実だけ少し楽観的。実はこの組み合わせが、一番危ない気がしています。


車一台で足りると思ったら、足りなかったという話


地方暮らしで非常によくあるのが、「最初は一台でいけると思っていたけれど、結局もう一台必要になった」というケースです。


たとえば、夫婦のうち一人が通勤で車を使う。もう一人は在宅やパート勤務だから大丈夫、と思っていたとします。ところが実際に住み始めると、平日の買い物、病院、保育園や学校の呼び出し、子どもの習い事、親の送迎、地域行事など、“ちょっと車が必要”な場面が予想以上に多い。しかも地方は「あとで歩いて行こう」が成立しにくい距離感です。


特に子育て世帯では、時間帯の重なりが問題になります。朝は出勤と登校・登園。夕方はお迎えと買い物と部活や習い事。雨の日は自転車が使いにくくなり、体調不良の日はさらに予定が崩れます。普段は回っていても、何かひとつイレギュラーが起きるだけで、車一台の運用は急に苦しくなります。


ここで「田舎だから時間はゆったりしている」というイメージを持っていると、現実とのギャップに驚くかもしれません。自然が多くて空気がのんびりしていても、生活の段取りは案外タイトです。むしろ移動距離が長いぶん、時間の余白は都会より作りにくいこともあります。


では、最初から二台前提で考えればいいのか。

ここも単純ではありません。二台持ちにすれば、そのぶん維持費も駐車スペースも必要です。だから大事なのは、「持つか持たないか」の二択ではなく、「今の家族構成と働き方だと、何年後まで見て何台必要か」を考えることです。

たとえば今は子どもが小さくて送迎中心でも、数年後には部活や塾で移動パターンが変わります。逆に、今は二台必要でも、職場や働き方が変われば一台で足りる時期が来るかもしれません。つまり、車の台数は“その瞬間の便利さ”だけで決めるものではなく、“暮らしの変化にどう対応するか”で見るべきです。


家を選ぶときも同じです。

車が二台、場合によっては来客用も含めて三台使う可能性があるのに、駐車スペースがきれいに二台ぴったり、しかも出し入れしにくい。これでは後からかなり困ります。

広さや間取りは気に入っていても、駐車が毎日のストレスになる家は、暮らしやすい家とは言いにくいです。


家を見るとき、ついリビングやキッチンの印象に目がいきます。もちろんそこも大事です。けれど地方では、駐車場は“おまけ”ではありません。ある意味、本体でもあります。

この視点を持つだけで、物件選びの精度はぐっと上がります。


維持費は「1台分」で考えないほうがいい


車の維持費の話になると、つい「月のガソリン代はこのくらいかな」と考えがちです。けれど実際には、それだけではほとんど足りません。


まず、税金と保険があります。そこに車検や法定点検があり、消耗品の交換があります。タイヤ、オイル、ワイパー、バッテリー、ブレーキパッド。さらに地方は走行距離が伸びやすいので、部品の傷みも早くなりやすい。山道や坂道が多い地域では、ブレーキや足回りへの負担も変わってきます。


そして、雪のある地域や朝晩の冷え込みが強い地域では、スタッドレスタイヤが実質必須になることがあります。ここでよくある誤解が、「スタッドレスって一度買えばしばらく安心ですよね」というものです。たしかに何年か使えますが、溝だけでなくゴムの硬化もあるので、年数が経てば性能は落ちます。さらに、家族で二台あれば二台分必要です。保管場所の問題も出てきます。これが意外と地味に効きます。


たとえば、移住後に普通車を一台、軽自動車を一台持つとします。一般論として、年間で見れば、車検・税・保険・整備・タイヤ関連まで含めて、想像よりまとまった支出になることは珍しくありません。ここに通勤距離が長ければ、燃料代も増えます。

しかもこの費用は、家の修繕費のように「あとで少し先送り」がしにくいものが多い。車が止まると生活が止まりやすいからです。


地方での暮らしでは、家の修繕費ももちろん大事ですが、車の維持費はそれとは別の意味で優先度が高いです。屋根や外壁は多少タイミングを見て計画できますが、通勤車両の不調は、明日から困る。ここに違いがあります。


だからこそ、移住前の家計シミュレーションでは、住宅費と光熱費だけで安心しないほうがいいです。おすすめなのは、「車1台あたりの維持費」ではなく、「家族全体の移動コスト」を見ることです。購入費、年間維持費、冬装備、通勤距離、乗り換え周期までざっくり重ねてみる。そうすると、家にかけられる予算や、物件選びの範囲も、現実に合ったラインが見えてきます。


少し夢のない話に聞こえるかもしれませんが、これは移住の楽しさを削るためではありません。むしろ、あとから「こんなはずじゃなかった」を減らすための話です。暮らしは、きれいな写真より、毎月の実感のほうが長く続きますから。


雪は“たまに降る”でも、暮らしには十分影響する


雪国とまではいかなくても、冬場に冷え込みが強い地域や、年に何度か積雪がある地域では、車の備えが暮らしやすさに直結します。よくあるのが、「雪はそんなに多くないと聞いたので大丈夫だと思っていました」という声です。これも間違いではありません。たしかに豪雪地帯ほどではない地域も多いです。けれど、問題は“何回降るか”ではなく、“降った日に生活が止まるかどうか”です。


通勤日だったらどうか。子どもの送迎が必要な朝だったらどうか。坂道の多い道、日陰で凍りやすい道、橋の上、細い生活道路ではどうか。

地方では、幹線道路だけで生活しているわけではありません。家の前の道、少し入った集落道、会社までの途中の坂道、保育園までの道。こうした“最後の数百メートル”が意外と厄介です。つまり「この地域全体の雪の量」より、「自分の家から日常ルートがどうなっているか」のほうが大事です。


ここで家選びともつながってきます。たとえば、見晴らしがよくて気持ちのいい高台の家。日当たりも良く、景色も良い。けれど冬場の坂道はどうか。朝の凍結はどうか。あるいは、広くて静かな土地。でも前面道路が狭く、除雪が入りにくい場所ではないか。家単体で見ると魅力的でも、車で出入りする前提で見ると評価が変わることはあります。

さらに、雪や凍結のある地域では、車種の選び方も変わってきます。四輪駆動が合うケースもありますし、最低地上高やタイヤサイズが使い勝手に影響することもあります。ただし、ここも“万能の正解”はありません。四駆は安心感がありますが、購入費や燃費との兼ね合いもある。車高が高い車は雪道に強い面がありますが、乗り降りや積み込みで別の好みが分かれることもあります。


大事なのは、「雪に強い車を買えば安心」ではなく、「その地域、その家、その通勤ルートに合った備えをする」ことです。そして、その備えには車だけでなく、駐車スペースの形や、玄関から車までの動線、屋根からの落雪、朝の出しやすさまで含まれます。


冬の朝、フロントガラスが真っ白で、出勤前に慌ててお湯をかけたくなる気持ちはわかります。でもそれを毎回やる暮らしは、なかなかしんどいです。だから移住では、雪の話も“観光の風景”ではなく、“朝7時の自分”で想像してみるのが大切です。


通勤時間は、家の満足度を静かに削っていく


家選びでは、建物の状態や価格、広さに意識が向きやすいものです。けれど実際の満足度を長く左右するのは、毎日の通勤や送迎の負担だったりします。

最初は「車で30分くらいなら大丈夫」と思っていても、それが毎日続くと話は変わります。

特に地方の30分は、都会の電車通勤30分とは疲れ方が違うことがあります。自分で運転し、天候の影響を受け、渋滞や農道や夜道もあり、帰りに買い物や迎えが入る。片道30分が、ただの30分ではなくなるわけです。


ここで怖いのは、家そのものには不満がないのに、「なんとなく暮らしがしんどい」という状態です。家は広い。庭もある。静かで空気もいい。けれど朝は早く出ないといけない、夕方は帰りが遅くなる、買い物がつい後回しになる、子どもの予定に余裕を持ちにくい。こうなると、せっかくの住まいの良さを味わう時間が減ってしまいます。地方移住では、「どこに住むか」と同じくらい、「どこへ毎日行くか」が大事です。職場、学校、保育園、スーパー、病院、実家、部活や習い事。これらを地図の上でひとつずつ見ていくと、候補地によって暮らしの負担がかなり変わることがあります。


工務店として家づくりや物件探しに関わっていると、つい建物側から考えたくなる場面もあります。ですが、現実には、間取りの正解より生活動線の正解のほうが、暮らし全体への影響は大きいことがあります。通勤や送迎の負担は、一日で爆発するわけではありません。少しずつ積み重なって、家族の余裕や会話や休日の元気を削っていく。だから見えにくい。でも確実に効きます。もし移住先の候補が複数あるなら、休日に見に行くだけでなく、できれば平日の朝や夕方の感覚も想像してみてほしいです。勤務地が今と同じ場合朝の出発は何時になるか。帰宅後に買い物へ行く余力はあるか。雨の日はどうか。冬はどうか。その想像ができると、家の見え方も少し変わってきます。


家そのものより、駐車場と外まわりで後悔することがある


移住先として中古住宅や既存住宅を見るとき、室内はある程度直せると思っていても、駐車場や外構は後回しになりがちです。けれど、車社会の暮らしではここがかなり大切です。


たとえば、家の前に一応二台止められる。でも一台ずつ入れ替えが必要で、朝に出す順番を毎回考えないといけない。あるいは、道路が狭くて切り返しが大変。軽ならなんとかなるけれど、普通車だと気を使う。雨の日はぬかるむ。夜は暗い。雪の日はさらに出しにくい。こうした不便は、図面や写真では分かりにくいですが、毎日の使い勝手には大きく響きます。


しかも駐車場の整備は、意外と費用がかかることがあります。土のままでは使いにくいので砕石を入れる、コンクリートを打つ、排水を考える、擁壁や土留めが必要になる、門まわりをやり替える、カーポートを検討する。条件によっては、建物本体の小さな修繕よりも外まわりのほうが予算を使うこともあります。

ここで大事なのは、「家が安いから、そのぶんお得」と単純に考えないことです。中古住宅が手ごろに見えても、車を複数台使う前提だと、外構や駐車場の手直しで思った以上に費用がかかる場合があります。逆に、建物は多少年数が経っていても、車の出し入れがしやすく、敷地条件が良い家は、暮らしやすさの点で強いです。


ペットのいるご家庭や子育て世帯では、なおさらです。

荷物を持って子どもを乗せ降ろしする。雨の日に急いで乗る。犬の通院や送迎がある。部活の道具や買い出しの荷物を積む。こういう日常は、広くて停めやすい駐車場があるだけでかなり楽になります。


家の中は、住みながら少しずつ整えることもできます。

でも、車の出し入れのしにくさは、毎日その場で発生します。だから私は、地方暮らしの家選びでは、「玄関から先の外まわり」も室内と同じくらい丁寧に見たほうがいいと思っています。


“ちょうどいい車”と“ちょうどいい家”は、だいたい一緒に考えたほうがいい


移住では、家と車を別々の問題として考えがちです。けれど本当は、この二つはかなりつながっています。たとえば、家に予算をかけすぎると、車の買い替えや増車が苦しくなる。逆に、車にお金をかけすぎると、外構や断熱改修の予算が削られる。どちらも暮らしに必要だからこそ、片方だけを理想に寄せすぎると、全体のバランスが崩れます。ここでいう“ちょうどいい”は、安さだけではありません。必要十分で、無理がなくて、数年後も回せること。これが大切です。


たとえば通勤距離が長いなら、燃費やメンテナンス性を重視する。雪や坂道があるなら、見た目より安心感を優先する。家のほうでは、広さを少し抑えてでも、駐車場や断熱や動線に予算を回す。そういう判断が、結果として暮らしの満足度を上げることがあります。


地方暮らしでは、「せっかく移住するのだから、家も車も理想に近づけたい」と思うのは自然です。私もその気持ちはよく分かります。でも、暮らしは展示場でもカタログでもなく、毎日の積み重ねです。見た目の良さや一瞬の高揚感より、使い続けられる現実のほうが強い。だから、移住を考えるときは、家と車を別々に選ぶのではなく、「この家に、この車で、この家族がどう暮らすか」という一枚の絵で見ることも大事です。その視点があると、必要な広さ、必要な台数、必要な駐車スペース、必要な予算配分が見えやすくなります。


そして不思議なもので、そうやって現実に合った選び方をしたご家庭のほうが、暮らし始めてからの満足度は高いように感じます。派手ではなくても、ちゃんと合っている。この“合っている感じ”は、住んでからじわじわ効いてきます。


移住を失敗にしないために、家の前に暮らしを描く


ここまで読むと、「地方移住って、なんだか大変そうだな」と感じる方もいるかもしれません。

でも、伝えたいのは“やめたほうがいい”ということではありません。むしろ逆で、先に現実を見ておけば、移住はもっと穏やかに始められる、ということです。


田舎暮らしには、たしかに不便もあります。車が必要になりやすい。移動距離も長い。雪や凍結の心配がある地域もある。家の価格だけ見ていると、後から見えないコストが出てくる。でもその一方で、家の広さ、庭の使い方、暮らしの余白、家族との距離感、地域とのつながりなど、都会にはない魅力もたくさんあります。だから大事なのは、理想を捨てることではなく、理想に“運用”を足すことです。


どこに住むか。誰がどこへ通うか。車は何台必要か。雪の日に困らないか。駐車場は出しやすいか。毎月の維持費は無理がないか。


こういうことを、家選びの前か、少なくとも同時に考えておく。それだけで、移住の精度はかなり変わります。


家は、建てて終わりでも、買って終わりでもありません。暮らしに合わせて、使いながら育てていくものです。そして田舎では、その暮らしの横に、ほぼ必ず車があります。だからこそ、移住の成功は“いい家を選ぶこと”だけではなく、“家と車と暮らしの関係をうまく組み立てること”だと思うのです。ちなみにクレアが移住先の新築やリフォームに関わらせていただいた方の中には、篠山に来てから免許を取得された奥さまもおられます。しかも、AT車ではなく1台目として、マニュアル車を購入された方もおられます。


4. 田舎こそ車社会


移住というと、つい家そのものに意識が集まりがちです。けれど実際には、暮らし始めてからの満足度を左右するのは、車の台数、維持費、通勤距離、雪への備え、駐車場の使いやすさといった、もっと日常的で地味な部分だったりします。「田舎だから車は必要だろうな」と分かっていても、その“必要”の重さまでは、住んでみないと見えにくいものです。だからこそ、家を見る前に少しだけ立ち止まり、車のことまで含めた暮らし全体を考えてみる。それは夢を小さくするためではなく、移住後の後悔を小さくするための準備です。


家は気に入っているのに、暮らしが回らない。そんなもったいない移住を減らすには、間取り図だけではなく、朝の出発、夕方の迎え、冬の道路、毎月の家計まで想像することが大切です。


“どんな家に住むか”の前に、“どう暮らすか”。その順番で考えると、選ぶ家も、選ぶ場所も、きっと少し変わってきます。


移住や家探しのご相談というと、どうしても建物の話が中心になりがちです。でも実際には、車のこと、通勤のこと、駐車場のことまで含めて見たほうが、暮らしはずっと現実的になります。

もし「この物件、家はいいけど暮らしやすいのかな」「うちの家族だと車は何台必要だろう」と感じることがあれば、そんな段階でも気軽にご相談ください。家を売るためではなく、暮らしを組み立てる目線で一緒に考えるのが、地元の工務店としてできることだと思っています。


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