“空き家を買って移住”はアリ?ナシ?
丹波篠山で見えてきた、成功パターンとつまずきポイント
「田舎に移住するなら、空き家や古民家を安く買って、自分たちらしく手を入れながら暮らしたい。」
ここ数年、こういうお話を聞くことが本当に増えました。
テレビや雑誌、SNSでは「○○万円で買った古民家を、自分たちでDIYしました」という素敵なストーリーがたくさん流れています。梁の見えるリビング、薪ストーブのある土間、庭に並ぶ薪棚…。都会のマンションやアパートとはまったく違う世界に、心を惹かれるのも自然なことだと思います。
実際、丹波篠山にも、空き家を上手に活かして、豊かな暮らしをしているご家族がたくさんおられます。
一方で、現地を見てワクワクしていたはずが、話を進めていくうちに
「あれ? 思っていたのと違うぞ…?」
と、一度立ち止まられる方が多いのも事実です。
このコラムでは、空き家移住を「やめた方がいい」と止めるつもりもありませんし、「最高だからみんなやろう」と背中を強く押すつもりもありません。
その手前で、空き家を買って移住するのは“アリ”か“ナシ”か。
その判断のヒントになるような“シタシラベ”を、いったん整理してもいいのではないか。
そんな思いで書いてみたいと思います。
なぜ「空き家+移住」が気になるのか
「移住」「田舎暮らし」と聞いて、どんな光景が浮かぶでしょうか。
冬の朝、白い息を吐きながら薪ストーブに火を入れる自分の姿。
夏の夕方、夕焼けを眺めながら縁側でビールを飲む夫婦。
子どもたちが庭を走り回り、犬がそのあとを追いかける……。
都会の暮らしではなかなか手に入らない「余白」や「静けさ」、そして昔の家ならではの味わい。そこに、「空き家なら建売より安く買えるかもしれない」「DIYも楽しめば、予算も抑えられるかも」という期待が重なると、
「よし、空き家を買って移住する方向で探してみようか」
という発想になるのは、とても自然な流れです。
実際、クレアにもここ数年で、「この古民家、どう思いますか?」「○○万円の空き家が出ているんですが…」と、図面や写真を持って相談に来られる方が増えました。
空き家バンクやポータルサイトを眺めながら、あれこれ想像をふくらませておられる姿を見ると、こちらまで少し楽しくなってきます。
ただ、ひとつだけ覚えておいていただきたいことがあります。
“空き家”という言葉は、「今、人が住んでいない」という状態を指しているだけで、「傷んでいない」「すぐ住める」「安く直せる」を保証してくれる言葉ではない、ということです。
空き家移住がうまくいっているご家族と、「これはちょっと大変だな…」と感じてしまうご家族。その分かれ目には、いくつか共通するポイントがあります。
空き家移住で、どこにつまずきやすいのか
想定外の修繕費・リフォーム費
空き家を見学された直後、よくこんな声を聞きます。
「外観は思ったよりキレイですね。これなら少し直せば住めそうな気がします」
たしかに、外からの印象は悪くない家も多いです。壁もまっすぐに見えますし、屋根も一見するときれいに見える。床も、とりあえず歩ける。
ところが、いざ屋根裏や床下を覗いてみたり、サッシや水まわりの年式を確認していくと、話が変わってきます。
屋根の下地が傷んでいて、葺き替えを前提に考えた方がいいケース。
床下の土台や大引に腐朽が見つかり、補強をしないと安心して使えないケース。
給排水の配管がかなり古く、このままでは漏水のリスクが高いケース。
テレビ番組のように「数週間で劇的ビフォーアフター」とは、現実にはなかなかいきません。(笑)
DIYで楽しめる部分もたくさんありますが、構造や防水、防火、そして設備に関わるところは、どうしてもプロの工事が必要です。
その結果、「空き家本体は安く買えたけれど、 フルリフォームしたら、新築や築浅の中古と変わらない金額になってしまった」というパターンは、決して珍しくありません。
法律・権利関係がスッキリしていない
登記上の所有者が亡くなったままで相続登記が終わっていなかったり、兄弟・親戚が多くて誰が最終的な決定権を持っているのか分かりにくかったり。
また、土地の方を見ると、公図と現況の境界が食い違っていたり、隣地との話し合いが必要だったり。道路にきちんと接しているのか、農地や水路、里道が絡んでいないか、用途地域はどうか…。
こうしたことを後から知ると、「思っていたよりずっと手続きが大変だ」ということになりがちです。
暮らしの動線までイメージできていない
見学のときには、“その家そのもの”に意識が集中します。
天井の高さ、梁の太さ、窓から見える景色…。
ただ、暮らし始めてから毎日向き合うのは、家だけではありません。
スーパーまで車でどのくらいかかるのか。
病院やドラッグストアはどこにあるのか。
小さなお子さんがいる場合、保育園・幼稚園・学校までの距離と通学路はどうか。
ご夫婦の通勤、自分の親のところへ通う頻度…。
見学した日は休日で、道も空いていて、ドライブがてら来られたかもしれません。
でも、実際の生活は「雨の月曜の朝」や「冬の夜、早く迎えに行きたい日」の積み重ねです。
「家は気に入っているけれど、毎日の車移動が想像以上に負担になってしまった」
というお声も、正直なところ何度か耳にしてきました。
それでも“うまくいっている空き家移住”には何があるか
では、空き家移住はやめた方がいいのか。
いえ、そんなことはありません。
空き家を選んで移住し、今も楽しそうに暮らしておられるご家族にも、いくつかの共通点があります。
一つ目は、「全部を一度に完璧にしようとしていない」ということです。
うまくいっている方ほど、最初からフルリフォームで“完成形”を目指すのではなく、
「まずは生活の土台になるところから整えよう」
という順番で考えておられます。
雨漏りや寒さ、カビ、そして水まわり。
ここを先に整えておけば、多少壁紙が古くても、フローリングに傷があっても、とりあえず暮らしていけます。
趣味の部屋や吹き抜けのリビング、庭づくりは、数年かけて少しずつ手を入れていくイメージです。
こうすると、初期費用のハードルがゆるみますし、「暮らしながら家を育てていく」という楽しみも生まれます。
二つ目は、「事前のシタシラベに、ちゃんと時間をかけている」ということです。
建物の状態を、図面と写真だけで判断せず、一度プロの目も入れて確認してみる。
土地と権利の状態を、司法書士や土地家屋調査士、不動産業者に相談してみる。
丹波篠山市や兵庫県の補助制度が使えそうか、窓口で聞いてみる。
全部を自分たちだけで背負おうとはせず、「ここは誰に相談するとよさそうか」を考えながら情報を集めておられます。
地元とのつながりを、早めにひとつ作っている
空き家バンクの担当者さんなのかもしれませんし、不動産屋さんかもしれませんし、すでに移住している先輩ご家族かもしれません。
あるいは、私たちのような地元の工務店が、その役割を担うこともあるでしょう。
「困ったら、この人にまず電話すればいい」
そんな存在がひとりいるだけで、移住のハードルはぐっと下がります。
“地元に味方がいる”という安心感は、暮らし始めてからも心強いものです。
空き家を見学するとき、どんな目で見るか
では実際に、空き家を見に行くとき、どんなところに目を向ければよいでしょうか。
細かいチェックリストを並べ始めると、今度はそれだけで一つの冊子になってしまうので、ここでは「見方の軸」だけお伝えしておきます。
一つは、その家にとっての「雨・風・湿気の通り道」を想像してみることです。
屋根の形や、軒の出方。外壁に入っているひびや汚れの跡。
外から見える情報だけでも、「この家はどの方向から雨や風を受けてきたのか」「どこに負担がかかっていそうか」がぼんやりと見えてきます。
室内に入ったら、壁のカビ跡や、床のふわっとした感じにも少し意識を向けてみてください。
丹波篠山は湿気と寒暖差のある地域です。湿気をため込みやすい間取りかどうかは、暮らし心地に大きく関わります。
もう一つは、「冬」と「夏」を頭の中で再生してみることです。
見学が春や秋だと、どうしても「いい季節」の顔しか見えません。
冬の底冷えの mornings を想像しながら、窓やサッシ、隙間の具合を眺めてみる。
夏の夜、窓の外にどんな虫が寄ってきそうかを思い浮かべてみる。
風が抜けるルートがありそうかどうか、窓の向きや位置からイメージしてみる。
そして三つ目は、「車と人の毎日の動き」をなぞってみることです。
ここに実際に住むとして、自分は朝何時に家を出て、どの道を通って職場まで向かうのか。
子どもが高校生になったら、部活で夜遅くなる日も出てきます。
そのとき、迎えに行く道はどうか。冬の凍結した夜に走っても怖くないか。
買い物や通院はどのルートになるのか。
頭の中で一日をスタートからゴールまで再生してみると、「この距離は大丈夫そうだな」「ちょっとしんどいかもな」という感覚が見えてきます。
最後に、ほんの少しだけ、5年後・10年後の家族の姿も想像してみてください。
子どもが巣立つ前の数年間、親の介護が必要になるかもしれない時期、自分たちが定年を迎える頃。
そのとき、この家やこの場所は、自分たちにとってどういう意味を持つだろうか。
今の家族構成にぴったりすぎる家よりも、「将来、増やしたり減らしたり、建て替えたりできそうだな」という余白がある家の方が、長い目で見ると気楽に暮らしやすいことも多いものです。
「買ったあと」ではなく、「気になり始めた段階」で
ここまで読むと、
「いやいや、とても自分たちだけでは判断できそうにない…」
と感じられたかもしれません。正直に言うと、その感覚はかなり“正解に近い”と思います。
建物の状態も、土地の権利も、暮らし方も、お金のことも。
最初から全部、自分たちだけで背負い込むには、移住というのはなかなか大きなプロジェクトです。
だからこそ、私はこうお伝えしたいと思っています。
空き家を「買ったあと」ではなく、「気になり始めた段階」から、地元の工務店を巻き込んでいただいて大丈夫です、と。
たとえば私たちなら、内見のタイミングで一緒に現地を見に行き、建物の状態をざっくり確認したり、「この家を自分たち仕様にするとしたら、このくらいの工事は必要になりそうです」と、金額の“ゾーン”をお伝えしたり。耐震や断熱、水まわりなど、「ここだけは押さえておいた方がいい」というポイントを一緒に考えたり。
そうやって、“シタシラベ”の段階から関わることができます。
もちろん、すべての空き家に対して「いいですね、買いましょう」と言うわけではありません。
「ここは直せばよくなりますが、ここはどうしてもコストがかさみます」
「この条件なら、もう少し別の物件も見比べてみてもいいかもしれません」
そんな話を、正直にお伝えすることもあります。
その上で、「やっぱりこの家が好きだから買う」という決断もあれば、「今回は見送ってもう少し探してみよう」という選択もあるでしょう。
どちらになったとしても、それはきっと“良い移住のシタシラベ”だったのだと思います。
空き家移住は“アリ”。ただし、順番だけは間違えないで
あらためて、このコラムのタイトルに戻ります。
“空き家を買って移住”はアリ?ナシ?
私の答えは、とてもシンプルです。
空き家移住そのものは、十分「アリ」です。
古い家には、新築にはない魅力や懐の深さがありますし、土地とのつながりを感じながら暮らしていく楽しさも大きい。
丹波篠山にも、そうやって古い家を相棒にして暮らしておられるご家族がたくさんいます。
ただし一つだけ、はっきりお伝えしておきたいのは、
「物件を買ってから考える」のではなく、
「考えてから物件を選ぶ」順番でいきましょう、ということです。
同じ空き家移住でも、この順番が逆になるだけで、その後の安心感や余裕が大きく変わってきます。少し時間はかかりますが、その分、決めたあとに「やっぱり良かったな」と感じながら暮らしていける可能性が高くなります。
丹波篠山での暮らしに興味を持ってくださった方が、勢いだけの大きな賭けではなく、
「ちょっと慎重だけれど、どこかワクワクするシタシラベ」
から移住をスタートしてくださると、地元で家づくりのお手伝いをしている者として、とてもうれしく思います。
次回の「移住のシタシラベ」では、
「今の家をどうするか問題」――売るか、貸すか、二拠点か。
そんな、もう一つの大きなテーマについて、ゆっくり考えてみたいと思います。
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