〜サツキとアリス、そしてメイの記憶〜
玄関を開けるとリビングとの間仕切り戸のガラスに「おかえり」と、しっぽをふりっているシェルティーのアリスのシルエットが映ります。
トントントンと階段を下りてきて、寝起きの背伸びをして、ゴロゴロと喉を鳴らして寄ってくる黒猫のサツキ。
昼でも夜でも何時に帰宅しても、そんなふたりの姿があります。
サツキには、双子の姉であるキジトラ柄のメイがいました。見た目も性格もまったく違っていたふたり。でも、それぞれに愛らしく、個性豊かで、一緒に過ごした日々は本当にかけがいのないものでした。
2年前、メイが病気で旅立ったとき、私たちはそばでしっかりと見送りました。たくさん泣いて、たくさんありがとうを伝えて。サツキも何かを感じ取ったのか、その日の前後は何かを感じていたのか、なんだか不思議な行動をしていました。そんな経験は、ペットと暮らす意味をあらためて考える時間にもなりました。
いま、サツキは静かな落ち着きをくれる存在として(時として、目覚まし時計の代わりに早起きさせてくれる存在として笑)、そしてアリスはにぎやかな笑顔の火種として、私たちの暮らしに寄り添ってくれています。どちらも、かけがえのない「うちの子」です。
ペットとの暮らし、“特別”から“あたりまえ”へ
私が子どもの頃、実家には犬や猫が常にいました。
とはいえ、当時の犬は庭の犬小屋で外飼いが基本。猫たちも、家の中と外を自由に出入りしているような時代でした。勝手口は鍵もなかった時代です。笑 猫のミーコは小学生の私の登下校を県道を超えてまで付き添ってくれていました!
そんな中、パピヨンの「パピちゃん」だけは特別で、室内で一緒に暮らしていました。我が家にとって初の小型犬だったので必然的に室内飼いになりました。
彼は家族の中心にいて、誰よりも気持ちよさそうにコタツで寝て、時にのぼせて、時に堂々とソファのど真ん中を陣取るような性格(笑)。
当時はまだ珍しかった“犬と一緒に暮らす”というスタイルを、家族に自然と教えてくれた存在でした。そして先輩猫たちの堂々たる先輩ぶりにも驚きました笑
でも、外に出していた猫が事故に遭い、もう動かない姿で見つかったとき——家族一致で決めたのです。「もう、猫は中で守ろう」と。それからは、完全室内飼いが我が家のスタンダードになりました。
時代の流れとともに、ペットと暮らすスタイルも変化してきました。最近のデータによると、日本ではおよそ5世帯に1世帯(約21%)がペットと暮らしており、その数は子どものいる世帯数を上回ると言われています。もはやペットは“家族の一員”として、私たちの生活に深く根づいているのです。
性格の違いが、家のかたちを変えていく
サツキは、マイペースで心穏やかな睡眠時間を愛する黒猫。
お気に入りは、午前中の日差しがやさしく差し込む娘の部屋の窓辺や、階段の踊り場、和室の内障子とサッシの間。
年齢も10歳になり、より落ち着いた日々をゆっくり味わうように暮らしています。時々はしゃいでいますけれど。
一方、シェルティーのアリスはやっと3歳。人が大好きで、らんらんとした真ん丸の目を輝かせて、おもちゃを咥え、遊ぼうよ!遊ぼうよ!と寄り添ってきます。けっして攻撃的な性格ではなくどちらかといえば臆病な性格だけど、その分家族と遊ぶのは大好きです。家族が動けばそばに来て、ソファに座れば隣にぴったり。我が家は家事動線を考えて、そして幼い娘がトテトテと遊べるように広めのリビングに各部屋へは廊下がない回遊動線とする設計しました。その恩恵(?)がいま、アリスの室内遊びに役立っています。
庭には芝を張り(今は草たくさんだけど)、ウッドデッキも設けて、自由に走れる“アリスの運動場”もあります。
こうして住み始めてからも性格や行動に合わせて家を整えていくと、人にとってもペットにとっても、心地よい空気が家の中に流れていくのを感じます。
“いのち”に寄り添う素材と間取り
ペットと暮らす家で重要なのが、素材選びと動線設計です。
我が家では、ヒノキの無垢フローリングを使いながら、アリスの足腰に負担がかからないよう滑りにくく加工しました。それでも爪で滑ることが多いので1番走るエリアにはクッションマットを敷いています。また1階の壁は塗り壁なのでサツキが爪を研ぐことはできず、その代わりソファは、犠牲になっています。床はヒノキや杉の無垢フローリングの上に自然派由来のオイルを塗っています。猫特有の“よく吐く”という場面でも、掃除がしやすい表面処理をしているので助かります。
1階壁には、珪藻土を採用。消臭・調湿効果があるため、ペットのいる暮らしでも室内の空気はすっきり快適。雨の日や梅雨時期でも、においがこもりにくいのは本当にありがたいです。
また、静かに休める場所や、トイレとごはんスペースの分離など、ほんの少しの配慮が彼らのストレス軽減につながります。
「ただ飼う」から「一緒に暮らす」へ。そんな視点を家づくりに取り入れることで、ペットと人がもっと寄り添える住まいになります。
丹波篠山だからこそ叶う、自然とつながる暮らし
私たちが暮らす丹波エリアは、自然に囲まれたのどかな土地。
朝は里山の小道をアリスと散歩し、サツキは窓辺で風に揺れる木々や鳥たちをじっと眺めて過ごしています。
人間にとっても心が落ち着く場所ですが、自然に敏感なペットたちにとっては、なおさら心地よい環境なのではと感じています。
都市部のペット共生住宅とはまた違う、“外とつながる”住まい方ができるのは、この地域ならではの強みです。
「この子と暮らす」という家づくり
メイとの涙の別れ、外で失ったミーコの悲しい記憶、パピちゃんとの楽しい日々。
他にもチビ、シロ、モモ、パル、リキ、サクラ、クルミ。。。そのどれもが、今の私のペットと暮らす家づくりの根っこにあるような気がします。
家は、暮らす人のためだけではなく、一緒に生きる“いのち”のための場所でもあります。
ペットと暮らすことは、手間もあるけれど、それ以上に笑いや癒し、そして「人として大切な何か」を教えてくれる。
これから家づくりを考える方にも、ぜひ「うちの子」とどう暮らしていきたいかを、少しだけ立ち止まって思い描いてみてほしいと思います。
きっとその想像が、より豊かであたたかな住まいの第一歩になるはずです。