古民家リフォームと天井の物語

この梁、どうする?

古民家に足を踏み入れた瞬間、目に飛び込んでくるのは、黒々とした太い梁と、少し低めの天井。

「落ち着くなあ」と感じる人もいれば、「もうちょっと広く感じたい…」と思う人もいるでしょう。


天井の高さは、古民家リフォームの中でも意外と奥深いテーマ。

今回は、古民家×天井高さについて、構造の話から換気、失敗しがちなポイント、実際の改修事例まで、まるっとご紹介していきます。


昔の家の「低さ」に込められた知恵


昭和初期の民家では、天井高が約2.0〜2.1mというのがごく一般的。

現代の感覚からすると「ちょっと低い」と感じるかもしれませんが、そこにはちゃんとした理由があります。


  • 室内空間をコンパクトにして冬の暖気を逃がさない
  • 囲炉裏やかまどの煙が天井裏に抜けるように設計されている
  • 天井裏の湿気が抜ける構造で、梁や柱を乾燥させて長持ちさせる


このように、【昔の暮らしと気候風土に合わせた“合理的な設計”】だったわけです。

ただ、現代の冷暖房や照明、生活動線には合わない面もあります。


天井を上げたい!でも、その前に…

「天井を高くして、開放感を出したい」

よくいただくご相談です。

ですが、いざリフォームに取りかかると、いくつかの“壁”にぶつかります。


1. 梁をどう扱うか?──切れない“主役”

天井を取り払えば、上にあるのは大抵、立派な梁(はり)。

この梁は、屋根の重さを支える重要な構造材なので、勝手に切ったり削ったりできません。


むしろ、魅力的に見せる「見せ梁」として活かすのが王道。

ただし、位置が低すぎると「天井を上げても頭がつかえそう…」というケースもあるため、設計時に慎重な検討が必要です。


2. 換気経路の再設計が必要

天井を上げるということは、天井裏の空間と居室がつながるということ。

これまで上手く働いていた自然換気の経路が変わってしまうため、新たな空気の流れを設計する必要があります。


とくに注意したいのが換気ダクトの通り道。

現代の機械換気やロフトファンなどを設置しようとすると、既存の軒桁(のきげた)に干渉してしまうことがよくあります。


軒桁は屋根構造を支える要となる材。ここに穴をあけることはできないため、ダクトのルート変更や天井内の再設計が必要になることもあります。


よくある失敗例と、その回避策


❌ 失敗例①:見た目だけで設計し、換気が悪化

あるケースでは、天井を撤去して見せ梁にしたが、換気設計を変更せずに施工したため、

「夏は2階が蒸し風呂のように」「梁の裏側にカビが発生」などの問題が起きました。


➡ 解決のポイント: 梁を見せる=屋根断熱・換気再設計が必須。

室内の空気がこもらないよう、排気の出口(ファンや換気口)までしっかり設計することが大切です。


❌ 失敗例②:照明や配線の計画が甘く、配線が露出に…

「古材の雰囲気が好きで梁を出したけど、照明をどこにつけるか決めていなかった」という方も。

結局、コードが梁を這ってしまい、せっかくの景観が台無しになったという事例もあります。


➡ 解決のポイント: 梁の魅せ方と同時に、配線や照明の計画をセットで行うこと。

とくに間接照明やライティングレールなどは、最初に組み込んでおくとスマートに仕上がります。


高さを確保する、実用的な2つの工法


● 見せ梁+外断熱で「高さと快適さ」の両立


もっとも王道な手法は、天井板を撤去し、梁を見せる方法です。


【事例①:築80年の農家住宅】

  • 天井撤去 → 梁をオイル塗装で仕上げ
  • 屋根裏に断熱材を外貼り施工(断熱性能UP)
  • 梁に沿って間接照明を設置し、落ち着いた照明計画に
  • 夏の熱気対策としてサーキュレーターを設置


最大天井高は3.5mほどに。

重厚感のある古民家に、“ぬけ感”と“空気の流れ”が加わった好例です。


● 天井板のみ撤去、最小施工で高さを感じさせる


もっとシンプルな例として、既存の天井板だけを撤去し、最小限の手間で高さを演出する方法もあります。


【事例②:築60年の平屋】

  • 既存の天井板撤去(約5日)
  • 梁は軽く研磨し、天然ワックスで保護
  • 電気配線は梁上に再配置し、配線カバーで処理
  • 天井裏のホコリ除去や清掃もしっかり実施


費用は抑えつつ、「高さ」と「古材の味わい」をしっかり感じられるリフォームになりました。


“高さ”は、数字以上の価値を持つ


天井が10cm高くなっただけで、空間の印象はガラリと変わります。

ましてや梁が見える、光が差し込む、空気が巡る、それだけで暮らしの快適さは段違いです。


でも、その一歩のためには、構造・換気・照明・配線などの設計が不可欠。

「ただ天井を上げればOK」ではないということを、ぜひ覚えておいてください。


「高さ」を決めるのは、あなたの暮らし


古民家の天井は、その家の記憶そのもの。

低さにも理由があり、上げるにも意味がある。


でも最終的に決めるのは、その家で、どんな暮らしをしたいかです。


「朝、光が梁を照らすのを見たい」

「家族で薪ストーブの火を囲みたい」

「広がりのある空間で、深呼吸したい」


その想いこそが、天井の高さを決める“ものさし”です。

そして、私たち工務店は、その想いに安全と知恵で応えることが役目だと考えています。