「移住すれば幸せ」という幻想
ここ数年、田舎への移住はブームともいえるほど注目を集めています。
「自然の中でのびのび子育てしたい」
「老後は静かな場所で過ごしたい」
「リモートワークが増えたから、都会にいなくてもいい」
そう考える人が増え、実際に丹波篠山市でも移住希望のご相談が毎年のように増えています。
ただ一方で。
実際に移住した人の中には、こんな言葉も出てきます。
「思っていたのと違った」
「少し後悔しています」
これは、決して特別なことではありません。むしろ自然なこと。
新しい環境に飛び込む以上、想像と現実のギャップが生まれるのは当然だからです。
このコラムでは、私自身が見聞きしてきた「後悔の理由」を2025年版として整理しながら、どうすれば後悔を最小限にできるのかを考えてみたいと思います。
1. 交通の現実──「近いのに遠い」距離感
丹波篠山は「大阪・神戸から電車で約1時間」と紹介されることが多い町です。
数字だけ見れば「通勤圏内」と感じるかもしれません。
しかし、実際に暮らすとこの「1時間」の重みは想像以上です。
電車の本数は1時間に1本程度。待ち時間を含めると「実質2時間」になることもある。
夜遅くの帰宅はほぼ不可能。都市部の終電の感覚は24時前後ですが。。
JR大阪から篠山口までの丹波路30分ごろ、普通快速は23時30分頃(実質最終)です。
あくまで大阪駅からです。
飲み会や残業が続けば移住生活は成り立たない。
駅までのアクセスも車が基本。徒歩や自転車で行ける距離に住める人は少数派。
「大阪まで1時間」は、あくまで“乗っている時間”。実際にはその前後の移動時間があり、「近いようで遠い」のが現実です。
2. 車社会の洗礼──自由と引き換えのコスト
田舎暮らしに車は必須。これ自体は多くの人が理解しているつもりです。
でも、「車を持つこと」と「車を使い続けること」の違いに気づくのは、実際に暮らしてから。
- 車検:10〜15万円(2年ごと)
- 自動車税:軽でも年1万円、普通車なら3〜5万円
- タイヤ交換:スタッドレス必須の地域では数万円単位
- ガソリン代:高騰傾向で、月1〜2万円が当たり前
「都会では電車定期代で済んでいた交通費が、車生活では維持費にすり替わる」
この計算に入れていなかった人ほど「後悔した」と感じやすいのです。
ただ、都市部で自家用車を所持していた方には維持費、特に駐車代に関する費用には驚かれるかもしれません。自宅から離れた駐車場に20,000円/月が必要な場合もあると思います。
建物以外に敷地に余裕がある場合は、玄関のすぐ横に駐車できます。もちろん、自らの所有地なので駐車場代も無し。
さらに、駅まで車となると、帰ってくるまで駐車場(コインパーキング)に停めておくこになります。駅前の駐車場、都会なら1日停めて2000円超える場所もあるでしょう。
篠山口駅前の駐車場は200円/日です。笑
そして、同時に、車があるからこそ味わえる自由もあります。
例えば、日曜の朝に思い立って家族で温泉に出かける。畑の横に車を停めて作業する。都会ではできなかった「移動そのものが楽しみになる暮らし方」も確かにあるのです。
3. 人間関係──濃さに戸惑う、でも支えられる
都会での人間関係は「希薄で気楽」。田舎ではその逆で「濃密でおせっかい」。
どちらが良い悪いではなく、好みと相性の問題です。
- ご近所さんから野菜をいただく
- 子どもの見守りを地域全体でしてくれる
- 困ったときにはすぐに声をかけてもらえる
- これらは都会では得られない安心感。
でも同時に、
- ちょっとしたプライベートも筒抜け
- 自治会や行事の参加が義務的
- 人によっては距離の近さがストレス
という一面もあります。
最初は「休みたい日に限って草刈りが…」とため息をつくことがあるかもしれません。
でも、それが地域の方々に馴染むきっかけになることもあるのです。
つまり、人間関係は「面倒」と「安心」が表裏一体。
これをどう受け止めるかが、後悔の分かれ道になります。
4. 医療・教育──“距離”が生む不安
田舎の暮らしで軽視できないのが、医療と教育です。
医療
総合病院は市内にあっても、専門的な治療や夜間救急は都市部へ行かざるを得ません。
総合病院だけでなく、ほとんどの地域が「かかりつけ医」も歩いていける距離にはありません。
シニア世代にとって「病院までの距離」は切実な問題です。
ただし、デマンドタクシーや行政のサービスはあります。
教育
小中学校はあるものの、選択肢は限られています。私立学校はありません。
塾や習い事に通わせるにも「送り迎えは親の車」。
私自身も娘の習い事や塾で夜の送迎を繰り返してますし、かつて私自身も送迎してもらっておりましたね。今の娘ほどどこでも送迎、ではありませんでしたが。笑
でもその一方で、田舎ならではの自然体験や地域交流が、子どもにとってかけがえのない財産になることも事実です。
5. 住宅の現実──古民家は「住めば都」か?
古民家に惹かれて移住を決める方も多いですが、そこで待っているのは「夏の暑さ」「冬の寒さ」との格闘です。
- 隙間風で暖房が効かない
- 湿気でカビが生えやすい
- 虫が多い
「風情」は間違いなくあります。けれど、実際に暮らしてみると光熱費やメンテナンス費用の高さに驚く人が多いのです。
ただ、これは工夫次第で改善できます。
断熱リフォームや窓改修で、快適さと省エネを両立することは可能です。
実際、当社でリフォームされたお客様からも「冬でも暖かい」「夏の冷房効率が上がった」との声をいただきます。
古民家は“住めば都”にも“後悔の塊”にもなる。ここも、心構えと計画次第です。
6. 生活コスト─「安さ」だけでは測れない
移住希望者がよく口にするのが「田舎は生活費が安い」という期待。
確かに、土地代や家賃は都市部に比べて格段に安いです。
しかし、実際に暮らすと──
- 車の維持費
- 光熱費の高さ(寒暖差が大きいため使用量増)
- 子どもの送迎や習い事費用
こうした“隠れコスト”がかさみ、結果的に思ったより出費が増えるケースも少なくありません。
ただし逆に、庭で野菜を育てたり、直売所で新鮮な食材を手に入れたりと「お金に換算できない豊かさ」も手に入ります。
つまり、田舎暮らしのコストは数字の計算だけでは見えないのです。
7. 後悔しないための心得 5つ
今まで挙げたことをまとめると、次の5つが後悔しないために必要かと思います。
- 車生活を前提に家計を組み立てること
- 人間関係は“お試し”から始めること
- 病院や学校の距離を必ず確認すること
- 住宅性能は必ずチェックして購入・改修すること
- 「安さ」だけで判断しないこと
これだけ押さえておけば、後悔の多くは防げます。
8. 移住工事は年々増加中
工務店として感じるのは、移住者からの工事相談が確実に増えていることです。
- 空き家リフォーム
- 古民家の耐震・断熱改修
- 二拠点生活向けの水回り整備
「最初から完璧でなくてもいい。少しずつ暮らしに合わせて整えていけばいい」
そんな考え方でリフォームを進める方が増えています。
つまり移住は“完成形を買う”のではなく、“自分で育てる暮らし”。
これを楽しめる人は、後悔より満足の方が大きくなるのです。
「後悔」の先にあるもの
移住に後悔はつきものです。
でも、それは決して失敗ではありません。
- 車が大変でも、自由な移動を楽しめる
- 人間関係が濃くても、その中で守られている
- 医療や教育に不便さがあっても、自然の中で得られる経験がある
- 光熱費がかさんでも、庭で収穫した野菜の味は格別
結局のところ、「後悔した」と笑いながら言える人が、最終的には「ここに来てよかった」と言えるのです。
移住に関心を持つ方なら、きっとこんなことも気になるはずです。
「田舎暮らしは本当に安いのか?」
「古民家の夏を心地よくするリフォーム」
「子育て世代が選ぶ丹波篠山の魅力」
そんな内容のコラムも別のページに書いております。
おれぞれ、さらに深掘りしてお伝えしております。
どうぞ続けてお読みください。
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