相続登記、どう進めればいい?──司法書士と一緒に「動かせる家」にするまで
登記を「やらなきゃ」と思ったその先に
前回のコラムでは、
「名義が祖父のままでは、家を壊すことも売ることもできない」という現実をお話ししました。
読んでくださった方の中には、
「うちも同じ状態かも」「でも、どうやって登記を進めたらいいの?」
と思われた方も多いのではないでしょうか。
今回は、そんな“次の一歩”をテーマに、相続登記の流れと、司法書士との上手な連携の仕方をお話しします。
難しい法律の話というより、「どう動けばいいのか」「誰に頼めばいいのか」が分かる内容にまとめました。
相続登記の全体像をつかむ
まずは、相続登記の全体の流れを簡単に見てみましょう。
実際の手続きは人によって違いますが、おおまかにはこのようなステップで進みます。
① 現状を確認する
登記簿謄本(登記事項証明書)を法務局で取り寄せる
→ 名義人が誰になっているかを確認します。
固定資産税納税通知書も一緒に見ると、 土地・建物の評価額や筆数が分かりやすいです。
名義が祖父母や両親のままなら、相続登記をしていないということになります。
② 相続人を確定する
登記をするためには、まず「誰が相続人か」をはっきりさせなければなりません。
このとき必要になるのが戸籍です。
- 被相続人(亡くなった方)の出生から死亡までの戸籍・除籍・改製原戸籍
- 相続人全員の現在の戸籍
戸籍を集めると、「この人とこの人が相続人」という関係が見えるようになります。
古い戸籍は手書きの時代もあり、解読が大変なこともありますが、司法書士に依頼すれば代わりに取り寄せてくれます。
③ 相続人同士で話し合う
次に、家族や親族で「誰がその不動産を引き継ぐか」を決めます。
この話し合いの内容を遺産分割協議書という形でまとめるのが基本です。
「長男が土地と建物を相続し、他の兄弟は同意する」
「3人で共有にする」
など、取り決めを明文化しておくことで後のトラブルを防ぎます。
印鑑証明付きの実印が必要になるため、遠方の相続人がいる場合は時間がかかることもあります。
④ 登記申請書を作成し、法務局に提出する
ここまでの準備が整ったら、ようやく法務局への登記申請です。
登記には「登録免許税」という税金がかかります。
これは不動産の固定資産税評価額の0.4%。
たとえば評価額が1,000万円なら、登録免許税は4万円です。
申請後、法務局の審査を経て、新しい名義人が正式に登記簿に記載されれば完了。
期間は早ければ1〜2週間ほど、書類に不備があれば1か月以上かかることもあります。
3.登記をスムーズに進めるためのコツ
登記の手続き自体は、「書類を集めて出すだけ」と思われがちですが、実際には“家族間の整理”が一番の壁になります。
● 相続人全員で「代表者」を決める
書類のやりとりをまとめる人がいないと、進行が止まります。
まずは「代表して手続きを進める人」を決めましょう。
多くのご家庭では、地元に残っている子どもや長男・長女が担うケースが多いです。
● 早めに専門家へ相談する
「相続人が多い」「戸籍が古い」「関係が複雑」など、少しでも難しそうなら早めに司法書士へ。途中から丸投げするより、最初から相談した方が時間も費用も抑えられます。
● “感情”の整理も忘れずに
登記は書類上の話ですが、そこには家族の思い出や感情が必ずついてきます。
「まだ片づけたくない」「思い出がある」と感じる人もいるでしょう。
焦らず、話し合いの時間を設けることも大切です。
4.司法書士とはどんな専門家?
司法書士は、登記や法律手続きのプロフェッショナルです。
とくに相続登記は司法書士の「独占業務」。本人が自分で申請することも理論上は可能ですが、実際には戸籍の収集や書類作成が複雑で、専門家の力が欠かせません。
● 司法書士に頼むときの流れ
- 相談・見積り(無料の事務所も多い)
- 必要書類の確認・戸籍収集
- 相続関係説明図・協議書の作成
- 登記申請・完了報告
完了すると、「登記完了証」と「登記識別情報通知(権利証)」が届きます。
● 費用の目安
- 登録免許税:不動産評価額の0.4%
- 司法書士報酬:5〜10万円程度
- 戸籍など実費:1〜2万円
登記が1筆・1棟なら10万円前後が一般的ですが、相続人が多い・物件が複数ある場合は20万円を超えることもあります。
● 司法書士に依頼するメリット
- 相続人の確定を正確に行える
- 書類の不備を防げる
- 申請を一括で代行してくれる
- 将来の売却や贈与の見通しも相談できる
つまり、「安心して一度で済ませられる」というのが最大の利点です。
5.“丸投げ”ではなく“一緒に進める”
司法書士にお願いするときのコツは、“全部お任せ”ではなく、“一緒に進める”意識を持つことです。
登記には、家族でしか分からない情報が多くあります。
- 誰がどこに住んでいるか
- どの土地と建物が対象か
- 相続人同士の合意内容
こうした情報を整理して渡すことで、司法書士も正確かつスピーディーに対応できます。
書類をそろえる前に、「どんな資料が必要か」「どの順番で進めるか」を司法書士と一度打ち合わせしておくと、トラブルも減ります。
6.司法書士の探し方・選び方
「どこに頼めばいいか分からない」という方は、まずは地元の法務局や市役所の相談窓口を訪ねてみましょう。地域の司法書士会の名簿や、無料相談会の情報も得られます。
また、工務店や不動産会社が紹介できる場合もあります。
日頃から信頼関係のある地域の専門家に相談できるのは安心です。
ポイントは、
- 相続登記の実績があるか
- 費用の見積りを明確にしてくれるか
- 話し方や対応が丁寧か
相談の段階で「分かりやすく説明してくれるかどうか」が判断の目安です。
7.登記が完了するとできること
相続登記が終わると、ようやくその家は「動かせる状態」になります。
解体:建設リサイクル法の届出・補助金申請が可能に
売却:不動産会社との契約が正式に結べる
活用:賃貸・リフォーム・譲渡などの選択肢が広がる
ここまで来て初めて、「家をどうするか」を本格的に決められるようになります。
登記は“ゴール”ではなく、“家を未来につなぐスタートライン”です。
8.実際の流れを想像してみる
たとえば──
祖父名義の家を相続する場合、司法書士に相談してから完了までの流れは、こんなイメージです。
- 登記簿を確認し、司法書士へ相談
- 戸籍収集・相続関係図の作成
- 相続人で協議・署名・押印
- 登記申請・完了
- 登記簿に新しい名義が記載される
期間は2か月前後が一般的。
家族での話し合いに時間をかけるほど、全体はスムーズになります。
9.「誰が動くか」を決める勇気
相続登記が進まない家の多くは、
「誰が代表して動くか」が決まっていないことが原因です。
相続人全員が“何となく気になっている”けれど、誰も最初の一歩を踏み出さない。
その間に建物は朽ち、税金だけがかかっていく。
小さな一歩でも、誰かが「まず動こう」と言い出すことで、家族全体が前に進み始めます。
その意味で、登記を進めるという行為は、家族のリーダーシップでもあるのです。
10.「専門家と一緒に、家を動かす」
相続登記は、難しそうに見えて、実は専門家と連携すれば驚くほどスムーズに進む手続きです。
- 登記簿を確認
- 相続人を整理
- 司法書士に相談
- 協議書をまとめて登記申請
この4ステップを意識するだけでも、“動かせない家”が“動かせる家”に変わります。
司法書士は、ただの書類の専門家ではありません。
家族の思いを、法的に「つなぐ」ための橋渡し役。
そして、登記が完了したその先で、工務店や不動産会社が“暮らしを再設計する”番になります。
11.次のステップへ
シリーズ①では「相続登記をしないと動かせない家」を、
シリーズ②では「登記を進めるための実践」をお話ししました。
次回のシリーズ③では、
実際に登記を終えた後に使える補助金制度や解体・再生の実例を紹介します。
“動かせるようになった家”を、どう活かしていくか──
そこが次のテーマです。
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