移住後の「お金」とどう付き合うか
「田舎に移住したら、きっとお金の負担は軽くなるはずだ。」
そんなふうに思いながら、地方移住や丹波篠山の情報を集め始める方は少なくありません。今より家賃は下がりそうだし、庭や畑があれば、野菜も少しは自分で育てられるかもしれない。そう考えると、なんとなく「暮らし全体のコストも安くなりそうだ」と感じてしまいます。
このコラム「移住のシタシラベ」の Vol.4 では、そのイメージから一歩だけ踏み込んで、
移住後の「浮くお金」と「かかるお金」を、いっしょに眺めてみたいと思います。
先に結論めいたことを言うと、田舎暮らしはすべてが安くなる暮らし、ではありません。ただし、「どこにお金がかかるか」を自分たちで選びやすい暮らしではあるのかな、と私は感じています。
家にかかるお金、車と移動のコスト、食や日用品のこと。ひとつひとつを細かく計算するというよりは、「だいたいこんなところで浮いて、こんなところでかかるんだな」という全体像を描く。そのうえで、自分たちなりの“納得できるお金の流れ”を考えてみる。
そんなきっかけになればうれしいです。
「安くなる部分」と「増える部分」は、たいていセットでやってくる
まず、多くの方が一番気にされるのは住まいの費用です。
都会のマンションと比べると、丹波篠山のような地域では、同じ予算でも、家の広さや庭の大きさにゆとりを持たせやすい。土地の価格や家賃相場だけを見れば、「これはこっちのほうがずいぶんお得だな」と感じるケースも多いと思います。ここで「浮くお金」としてイメージしやすいのが、
・家賃やローンの金額
・同じ予算で手に入る広さや環境
といった部分です。
一方で、その裏側には、じわじわ「かかるお金」も潜んでいます。たとえば、ほとんどの方が車との付き合い方を変えることになるでしょう。
1台だった車が2台になったり、それまでほとんど乗っていなかった家族も運転するようになったり。車本体の価格に加えて、ガソリン代、任意保険、車検、タイヤ交換……。目立たないけれど、毎年きちんと出ていくお金たちです。
「家にかかるお金は浮いたけれど、車関係のお金は確実に増えた」そんな声は、丹波篠山周辺でもよく耳にします。
田舎暮らしの“お金のリアル”をひとことで言うなら、浮くお金もあれば、かかるお金もある。
そのセットで見ておくと、ギャップは小さくなる。ということかもしれません。
「家」にかかるお金は、建てたあとにじわじわ効いてくる
地元の工務店としてご相談を受けていると、移住を機に家を建てたり、大きなリフォームをされたりする方も多くいらっしゃいます。
このとき、つい目が行きがちなのは「家の本体価格」です。もちろん大事な数字なのですが、長い目で見ると、それ以上に暮らしに効いてくるのが「建てたあとにかかるお金」です。
分かりやすいのは、断熱性能や窓のグレード。ここを少し頑張っておくと、冬の暖房費や夏の冷房費がぐっと変わってきます。
最初に少しコストをかけて、「冬も夏もエアコンやストーブに頼りすぎなくていい家」にしておくのか。あるいは、初期費用を抑えて、「光熱費が多少多めにかかる家」で暮らしていくのか。どちらが正解という話ではありません。ただ、十年、二十年というスパンで見たとき、「やっぱり最初にここはちゃんとしておいてよかった」と言われるポイントでもあります。
逆に、古民家や築年数の大きい家を選ぶ場合。購入費用や家賃は抑えられても、そのままの断熱・気密で冬を迎えると、どうしても石油や電気に頼りがちになり、暖房費がかさみやすい側面もあります。
「安く手に入る家」を選ぶか、「ランニングコストまで含めてバランスをとる家」を目指すか。
このあたりは、移住前の段階で一度じっくり考えておきたいところです。大事なのは、家にかかるお金をその場の価格だけでなく、「その後の光熱費やメンテナンス費も含めたトータル」で見るという感覚を持っておくことだと思います。
車と「時間」のコストも、暮らしの一部になる
都会から丹波篠山のようなエリアへ移ると、ほとんどの方にとって、車は生活の中心的な道具になります。電車と徒歩、たまに自転車。そういったスタイルから、毎日車に乗る暮らしへ。
ここで「かかるお金」として見ておきたいのは、さきほど触れた車本体やガソリン、保険、車検などに加えて、「移動にかかる時間」です。仕事、学校、買い物、病院、習い事。そのどれもが、片道二、三十分のドライブになることも珍しくありません。カレンダーには書かれないけれど、毎日の暮らしの中で、確実に積み上がっていくコストです。
もちろん、車があることで
・行動範囲が広がる
・家族で出かける機会が増える
・荷物を気にせず買い物ができる
といった「得している部分」もたくさんあります。
ですから、移住前の下見の段階で、実際に何度か現地との往復をしてみて、自分たちは、この距離感や時間のかかり方を、心地よいと感じるか。それとも、少ししんどいと感じるか。を、なんとなくでも体感しておくと安心です。
数字にできるお金だけでなく、「時間のコスト」もいっしょに眺めておく。それが、車社会の暮らしに慣れるための、ちいさなシタシラベになるように思います。
食費と日用品は、「節約」か「楽しみ」かで変わってくる
田舎暮らしと聞くと、「家庭菜園で野菜を育てて、食費が浮きそう」そんなイメージを持たれる方も多いでしょう。たしかに、丹波篠山でも、畑仕事を楽しむご家庭はたくさんあります。季節ごとに、ご近所さんから野菜をおすそ分けしてもらえることも多く、旬のものが身近にある暮らしは、大きな魅力のひとつです。
その一方で、移住をきっかけに、食材の質にこだわるようになった、地元の美味しいお店めぐりが楽しみになった、といった理由から、「実は食費は少し増えました」と笑って話される方もおられます。
どちらも間違いではありません。要は、自分たちが「食」にどれくらいお金と手間をかけたいか、という違いです。日用品も同じで、都会のようにドラッグストアや大型店が選び放題、という環境ではありません。そのぶん、買い物の頻度は下がる半面、一回あたりの買い物量は増える傾向があります。
ここでもやっぱり、とにかく節約モードでいきたいのか。それとも、「せっかくだから食や暮らしを楽しみたい」のか。ご家族としての“暮らし方の軸”が、お金の使い方にそのまま反映されていきます。
「安いか高いか」より、「納得して払えるかどうか」
ここまで、
・家にかかるお金
・車と移動のコスト
・食や日用品のこと
と、いくつかの角度から「浮くお金」と「かかるお金」を眺めてきました。
まとめてしまうと、田舎暮らしはすべてが安くなるわけでも、すべてが高くつくわけでもなく、「お金のかかり方のバランスが都会と変わる暮らし」と言えるのかもしれません。
あるところでは浮いて、あるところではかかる。
そのうえで大事になってくるのは、そのお金が自分たちが大事にしたい暮らしのために、動いていると感じられるかどうか。通勤時間が増えたけれど、そのぶん家の中や庭にゆとりがあること。車にお金はかかるけれど、家族で出かける選択肢が増えること。食材には少し贅沢をしても、外食の頻度はむしろ減っていること。
数字だけを見れば「前より高い」「前より安い」と言える部分はあっても、毎日の暮らしの手触りとして、「これなら納得して払える」と思えるかどうか。その感覚こそが、移住後の満足度を左右するのだろうと感じています。
移住前から「お金の話」をテーブルにのせておく
移住のご相談をいただいていると、どうしても最初は「夢」の話が中心になります。
こんな景色のところに住みたい。庭で犬と遊びたい。畑で野菜を育てたい。もちろん、それでいいのだと思います。夢や憧れがあるからこそ、大きな一歩を踏み出す力が湧いてくるのですから。
ただ、そのどこかのタイミングで、一度じっくり「お金の話」もテーブルにのせてみてほしい、というのが、地元工務店としての正直な気持ちです。毎月のローンや家賃。車にかかるお金。光熱費や通信費。食費や日用品。細かく項目を分けて完璧な家計表を作る必要はありません。「このあたりが浮きそうで、このあたりは今よりかかりそうだね」と、ご家族でざっくり話してみるだけでも、移住後のギャップはぐっと小さくなります。
私たちクレアのような地域に根付いた工務店は、家そのものの価格だけをお伝えするのではなく、暮らしのコストも含めて一緒に考えるお手伝いができます。
断熱や間取りをどう工夫すれば、光熱費を抑えやすいか。
車生活を前提に、どんな位置に玄関や駐車スペースをとると動きやすいか。
将来、家を貸したり売ったりする可能性まで見据えたとき、
どんなサイズや仕様にしておくと選択肢が広いか。
そういった話も含めて、「浮くお金、かかるお金」を一緒に眺めながら、ご家族にとっていちばん納得できる形を探していけたらと思っています。移住は、人生のなかでも大きな決断のひとつです。だからこそ、お金のことも、暮らしのことも、どちらか一方ではなく、両方を見ながら選んでいきたいところ。
この Vol.4 が、「お金は浮くところもあれば、かかるところもある。それを自分たちの暮らしに引き寄せて考えてみようか。」
そんな会話のきっかけになれば、うれしく思います。
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