「うちも古いけど大丈夫?」から「一度チェックを」へ
「うちの家も、もう築30年以上なんだけど、耐震は大丈夫なんだろうか?」
地震のニュースを目にするたび、そんな思いが胸をよぎる方は少なくありません。
各メディアで1月17日や3月11日前後で、地震や耐震の特集が組まれることも多くあります。
その時期は耐震診断の依頼も増えます。
家は大切な資産であり、同時に家族の命を守る“シェルター”でもあります。だからこそ、気になるのは当然のことです。けれども多くの人は、不安に思いながらもそのまま暮らし続けてしまっています。
理由は単純で、「何をどう確認すればいいかわからない」から。
耐震のことは専門的で難しいイメージがありますが、実際には「知っておくべき分かりやすい基準」や「数字で見える安心」があります。
このコラムでは、築30年以上の家をテーマに、注意すべき背景やチェックポイント、補強の方法、費用感までを丁寧にお伝えします。読むことで「やみくもな不安」から「冷静に備える行動」へと踏み出していただけたらと思います。
なぜ「築30年」が分岐点になるのか
築30年は単なる区切りではなく、法律や震災の歴史の中で耐震を考える上で重要な意味を持ちます。
耐震基準の大きな改正
1981年(昭和56年)の建築基準法改正は、耐震の世界では一つの“境界線”です。
それ以前の基準は「震度5程度に耐える」ことを前提にしていましたが、1981年以降は「震度6強〜7でも倒壊しない」が目標になりました。この違いは、命を守れるかどうかを左右する大きな差です。
つまり、1981年以前の住宅は“旧耐震”と呼ばれ、大地震には弱い可能性が高いのです。
阪神・淡路大震災の教訓
1995年の阪神・淡路大震災では、旧耐震住宅が数多く倒壊しました。特に木造住宅の被害は甚大で、柱や壁の配置、接合部の弱さが致命的となりました。この教訓から2000年に再度の基準強化が行われ、柱の直下率や壁量バランスといった、より具体的なルールが盛り込まれました。
つまり「1981年以前」と「1981〜2000年」では基準が違い、さらに「2000年以降」でようやく現在に近い基準が整ったわけです。
二重のリスク
築30年を超える家は、
- 基準が今ほど厳しくなかった可能性
- 材料や構造が劣化している可能性
の両方を抱えています。これが「築30年超は一度チェックを」と言われる大きな理由なのです。
「大丈夫?」を見極める身近なサイン
「でも、具体的にどうやって判断すれば?」と疑問に思う方も多いでしょう。
専門家の診断が必要ですが、日常の中にも気づけるサインがあります。
外観をよく見れば、外壁のひび割れや基礎の欠け、沈下などが確認できます。
これらは雨水の浸入や地盤の変動を意味し、構造に悪影響を与えている可能性があります。
屋根瓦のずれや落下も要注意。屋根が重いと揺れが増幅され、耐震性は大きく下がります。
室内ではドアや窓の開閉が重くなっていないか、床に傾きがないか、壁紙に斜めのひびが出ていないか。
こうした変化は、建物がゆがんでいるサインかもしれません。
また、古い家では建築当時の構造図が残っていないことも多いもの。図面があれば耐震診断はスムーズですが、ない場合は現場調査から始める必要があり、その分コストもかかります。
「何となく不安」から「確かに気になるサインがある」に変わった時点で、一度専門家に相談する価値は十分にあります。
耐震性を数字で知る「評点」という基準
耐震を考えるうえで欠かせないのが「上部構造評点」です。これは、家の耐震性を0.1刻みの数値で表したもの。つまり「この家は地震でどれくらい持ちこたえられるか」を点数化する基準です。
評点の意味
- 1.0以上:現行の新耐震基準を満たし、倒壊しにくい水準
- 0.7〜1.0未満:中地震には耐えられるが、大地震では危険が残る
- 0.7未満:大地震で倒壊する可能性が高い
実際に築30年以上の住宅で1.0を超える例は少なく、多くは0.6〜0.8にとどまります。
どう計算されるのか
診断は専門家が壁の量や配置、屋根の重さ、柱と梁の接合、床の強さなどを総合的に評価して行います。例えば南側に大きな窓が並んで壁が少ない家は、その面が弱く見なされます。2階を支える柱の下に1階の柱や壁がなければ、上下のバランスが悪いとされます。
逆に、壁がバランス良く配置されている、屋根材が軽い、金物で柱と梁が強固に結ばれている──そうした条件が揃えば評点は上がります。
数字で「見える化」する価値
「古いから危ない気がする」と漠然とした不安を持つより、「うちは0.6だから補強が必要」と数字で理解する方がはるかに行動につながります。
さらに自治体の補助金制度では「評点1.0未満」が条件になっていることも多いため、数字を持つこと自体が経済的なメリットにも直結します。
「築30年超えは一度チェックを」とは、すなわち「数字で現状を知ろう」という意味でもあるのです。
耐震補強リフォームの方法
補強といってもやり方は一つではありません。家の弱点に合わせて多角的に考えることが大切です。
瓦屋根を金属屋根に替えるだけで、重心が下がり揺れに強くなります。
壁を補強すれば水平方向の揺れに耐えられます。
柱と梁の接合部に金物を追加したり、床を補強すれば建物全体のねじれを抑えられます。
「全体を一度に補強するのは難しい」という場合には、一室だけを強化する「シェルター的な発想」も有効です。
地震時に家全体は揺れても、その部屋だけは倒壊しないようにする。これも命を守るための現実的な方法です。
費用と実際の体験
補強工事の費用は範囲や方法によって大きく変わります。
屋根の軽量化は150〜300万円、耐力壁の追加は1カ所10〜30万円。全面的な補強なら200〜500万円が目安です。
実際に、築35年の木造住宅で評点0.5だった家を補強し、1.1まで改善した事例があります。工事費は約300万円。施主は「これで安心して眠れるようになった」と語っていました。金額以上に安心という“暮らしの価値”を得られることが大きいのです。
さらに自治体の補助金を活用すれば、自己負担を抑えられるケースもあります。
丹波篠山市でも毎年募集枠が設けられていますので、タイミングを逃さずチェックすることが肝心です。
「古い家に住み続ける」という選択
築30年以上の家には、家族の歴史や思い出が積み重なっています。そのため「壊して建て替える」という決断は簡単ではありません。
リフォームで延命するか、新築に建て替えるか。その判断は耐震だけでなく、断熱性やバリアフリー性能、将来のライフスタイルも含めて考える必要があります。
リフォームは思い出を残しながら安心を加える方法。建て替えは将来の安心と資産価値を重視する方法。どちらを選ぶかは「これからどんな暮らしをしたいか」で決まります。
リアルな基準を持つ
大切なのは、築年数だけで判断しないことです。
1981年以前なら要注意。1981〜2000年の家も診断を受けて補強を検討すべき。2000年以降でも、メンテナンスを怠れば安全とは言えません。
つまり「築30年だから危険」とも「新しいから安心」とも一概には言えない。診断を受け、数字で現状を把握し、必要な対策をとる──これがリアルな基準です。
「一度チェック」で未来の安心を
地震は避けられません。けれども、備えることはできます。
築30年を超える家に住んでいるなら、一度は耐震診断を受けてみることをおすすめします。数字で現状を知る。必要に応じて補強を検討する。その一歩が、家族を守る確かな行動につながります。
「まだ大丈夫」ではなく、「一度チェックして安心を得る」。それが、これからの暮らしを守るための最も現実的で、優しい選択です。
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